そしてもし地上のものがきみを忘れたら、
静かな大地に向かって言え、私は流れる、と。
すみやかな流れに向かって言え、私は在る、と。
リルケ「オルフォイスに寄せるソネット」

「...なら、これが俺のトーテムポールじゃ」と、笑って言って
親父さんは僕らに鷲の絵が描かれた、すこし古びた焼酎瓶を見せてくれた
絵の上手かった彼女がまだ小さかった頃、
お絵描きしてくれたものだという
今も共に在ることの証であり、誓い
それはまさにトーテムポールだった
ある出来事の続きの日々を、今日も生きている
そのことの意味
ひとつひとつの
時の、あのあたたかな熱量だけは
覚えている
川むこうにならぶ
双子のビルに灯されたあかりを遠目に
夏のしどけない暗がりのなかをあるく
飽きもせず
かなしみの森に
捨てきれぬにくしみで
眠られぬ夜だってある
やがて冬が
肺胞のひと粒ひと粒に至るまで、染み出してくる前に
「なぜ?」という、およそ答えのない問いの前で
吸い込まれては吐き出され
吸い込まれては、吐き出され
(忘れるな、いまもまだ祝福されているのだ)
今日という日を漂う大気に充溢する、草花からのいざない
を、ここぞとばかりにこの身体へと満たしていく
私もまた、呼吸していること、思い出すため
ともに息を吸い、吐き出していること、感じるため
同じ流れのなかにいること、すこしでも、わかちあうため
わからなくなってしまうから
あなたがたと私は
今もともにある
台地の下を流れている幹線道路から
漠とした
ことばに、いや、声にすらならない、おと
そのオブセッション
ひそやかに明滅を続ける航空障害灯
人のいなくなった部屋から、いつも見てた
そして、ベランダから星なき星空をいつまでも眺めている
お気に入りの歌を聴きながら
そういえば、昼間にも星は出ているんだってね
これは影の物語
よるとひるのあいだは
一体どこにあるのだろう
思い立っては、川べりまで自転車を走らす
この世界に限りあり、限りなきことを
もっとこの身体で、ひしひしと感じていたと思うんだ
あの踏切を渡った先の隣町
同じ公園に集いあそぶ、違う学区の子どもら
午前12時を過ぎた真夜中のおしゃべり
踏み越えていくことが 
大人になることだとして
おまえはどこに行きたかったのか?
そして、何を願っていたのか
この場所から祈り続ける
おまえは、おまえの生きることの歌をうたえ
おれも、おれの生きることの歌をうたう
きっと、うたいつづける
それがどんなに手垢にまみれたことばになろうが
生きるためのことばを探せ
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